NHK朝ドラ放映中の、ニッカウヰスキー創業者

日本のウイスキーの父 竹鶴政孝物語

第十六回

 ニッカウヰスキー余市工場では、石炭による直火型の蒸留が今も続いている。
政孝がスコットランドで学んだこの方法は、ウイスキーづくりの原点であり、営々と未来へ継承されていくべき遺産なのだ。

「ウイスキーづくりにトリックはない」
これは政孝の口癖であった。世の中とても、安ければ質などかまわないなどという風潮が、いつまでも続くわけがない。

戦後の復興期を経て人々は落ち着きを取り戻し、ウイスキー本来の良さを求めるようになってきた。
 技術者の豊かな経験と愛情が、材料とじっくり対話する。政孝はじめ技術陣たちは、戦中・戦後の苦しい時代にも、もとめて品質第一主義を貫いてきた。

「信念を曲げずに前進する。それが好意を寄せて下さった人々に報いる私の道だと信じている」
 政孝の自負と誇りをよりどころに、今もニッカはこの道を歩み続けている。

 今、政孝とリタは余市をみおろす美園の丘に眠っている。二人の名前と< IN LOVING MEMORY OF RITA TAKETSURU >の英文が刻まれている墓石は、雪を冠りながら工場を見守っている。

 この丘の雪が溶け、余市川の水ぬるむ頃には、ニッカの新たな挑戦の二十一世紀がすでに始まっている。

                                            完