今秋のNHK朝ドラになる、ニッカウヰスキー創業者
日本のウイスキーの父 竹鶴政孝物語
第十一回
各工程の技術陣も勢揃いした。心待ちにしていたポットスチルもやっと届き、ウイスキーはもちろん、林檎ブランデーの蒸溜も可能になった。
借金に借金をかさねながら、ただひたすら原酒づくりに邁進する日々は続き、余市川ほとりの沼地の中州に、貯蔵庫も建てられた。
「ウイスキーは心を込めてつくり、あとはゆっくり寝かせてあげるだけ、樽も三段以上積んではいかん」政孝は中州に建つ、ほの暗い貯蔵庫に佇むことを好んだ。
積まれた樽は、労苦のかたまりに見え、銀行や株主の顔が去来する。
かと思えば、「希望」という名の液体が、時の変容に身をゆだねているようでもあり、数々の恩人との思い出がゆらぎたつ。
貯蔵庫の外では、きな臭い戦争への兆候がただよっていた。