今秋のNHK朝ドラになる、ニッカウヰスキー創業者
日本のウイスキーの父 竹鶴政孝物語
第五回
政孝がプロポーズしたのは、グラスゴーの少し北にある
「明るく美しいほとり」とうたわれたローノンド湖畔。
「結婚してほしい、リタ。君が望むならここに留まる覚悟でいるんだ。」
「いいえ、あなたには大望があるはずよ」
「・・・・・・」
「わたしたちは、日本に行くべきです。絶対に」
毅然としながらも優美な感情を口許に浮かべて、
リタは諭すように政孝に言った。家族や親戚の反対を押し切ってなお、
住み慣れた故郷を離れることも厭わないというこの女性に恋したことを
誇らしくも切なく、そしていとおしく思った。この人を大切にしよう、
北の空に誓ったことを回想していた。
1920年
竹鶴政孝26歳、ジェシー・ロベールタ・カウン・愛称リタ24歳の春だった。